耳の病気
耳の構造
耳の病気に関して代表的な病気をまとめました。受診前の参考にして頂いたり、受診された後の確認としてお読み頂けたら幸いです。
よくご質問を頂くことに関してはQ&A形式でまとめています。
耳あか
「耳掃除だけで病院を受診してもよいの?」と時々聞かれることがありますが、気軽に受診をして頂けたらと思います。定期的に耳掃除をさせて頂くことも可能です。耳あかの性状や外耳道の形状により、耳あかが溜まりやすい方もおられます。
耳あか Q&A
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耳掃除は自宅ではどれくらいのペースで行うのがおすすめですか?
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柔らかい綿棒などで1回/週程度の耳掃除をおすすめしています。
耳掃除を頻回に強くしすぎた場合、外耳道を傷つけ、外耳炎などを引き起こすことがあります。
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耳垢栓塞(じこうせんそく)とはどういう状態ですか?
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耳あかが固まり、外耳道を塞いでしまうと、突然耳あかにより聴こえにくくなってしまうことがあります。耳あかが外耳道を塞いでしまう状態を耳垢栓塞(じこうせんそく)と言います。
耳垢栓塞となってしまった場合、自宅での耳掃除では対応は難しく、病院での掃除が必要となります。耳垢栓塞を認めた場合は、顕微鏡等で確認しながら慎重に耳掃除をさせていただきます。可能な範囲で受診当日に掃除をさせていただきますが、耳あかが硬い場合には無理な処置はせず、耳あかをふやかす水薬(点耳薬)を処方し、耳あかを柔らかくしてから何度かにわけて耳掃除をさせて頂くことがあります。その場合は、複数回通院していただく可能性もありますが、ご了承ください。
外耳炎
外耳道が何らかの要因により傷つき炎症を起こした状態です。炎症が強い場合には、耳だれを伴うこともあります。抗生物質の飲み薬や点耳薬、塗り薬などで治療を行うことが多いです。
外耳炎 Q&A
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外耳炎になりやすい要因はありますか?
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外耳炎は、特に耳掃除を頑張りすぎたときにおこりやすいといわれています。軽度の外耳炎ではかゆみを生じることが多いですが、重症化すると痛みや耳漏(耳だれ)を生じることがあります。特に、耳のかゆみがあるときは頻回に耳掃除をしたくなってしまいますが、無理な耳掃除はしないことが重要です。実際に、外耳道炎が起こってしまった場合は、しばらく耳を刺激しない(耳掃除をしない)ことも治療となります。
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耳掃除は自宅でどれくらいのペースで行うのがおすすめですか?
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柔らかい綿棒などで1回/週程度の耳掃除をおすすめしています。
耳掃除を頻回に強くしすぎた場合、外耳道を傷つけ、外耳炎を引き起こすことがあります。
中耳炎
中耳炎にも種類があり、中耳に細菌が感染して起こる急性中耳炎、中耳に水が溜まる滲出性中耳炎、その他、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎などがあります。病院では一般的に鼓膜を観察し診断します。中耳炎は成人の方でも起こりますが、特にお子さんに多い病気です。
お子さんの中耳炎 Q&A
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お子さんはなぜ中耳炎を起こしやすく、繰り返しやすいのでしょうか?
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中耳は、鼓膜の奥にありますが、耳管という管で鼻とつながっています。
大人になると耳管は細長くなりますが、お子さんの耳管は太くて短いといわれています。耳管が太くて短いため、鼻の細菌が耳に入りやすい状態です。
また、未就学児は、細菌やウイルスから体を守る免疫力が弱いことや集団保育などで、風邪や細菌感染を起こしやすいことも、中耳炎を繰り返しやすい要因となります。10歳頃になると耳管は発達し、中耳炎を起こしにくくなります。
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お子さんが中耳炎を起こしにくくするためにはどのようにすればよいですか?
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お子さんの中耳炎は耳管の発達が弱いこと、大人と比較し免疫力が弱いこと、集団保育などにより感染をもらいやすいこと等が原因です。中耳炎の予防においても、日常的な手洗い、うがいなどの感染予防は大事です。特に鼻の調子が悪いときにおこりやすいため、鼻の調子が悪いときは、自宅での鼻水の吸引や病院での治療が重要だと思います。
低年齢の頃は中耳炎を起こしやすく、根気強く治療していくことが必要ですが、当院でもかかりつけ医としてしっかりと対応をさせて頂けたらと考えています。
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急性中耳炎と滲出性中耳炎の違いは?
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急性中耳炎は、鼻などの細菌が中耳に入り、細菌が中耳で繁殖し炎症を起こすことにより生じます。一般的に痛みを伴う中耳炎です。それに対し、滲出性中耳炎は、中耳に液体が溜まる状態で痛みは伴いませんが、聞こえにくさや耳閉感を生じます。滲出性中耳炎は急性中耳炎の治りかけの時や鼻の調子が悪く耳管の出口が狭いときなどに生じやすいといわれています。
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急性中耳炎、滲出性中耳炎の治療は?
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急性中耳炎では、軽症であれば抗生剤を使用しない場合もありますが、中等症~重症の場合は抗生剤治療を行います。鼻の調子が悪いときに生じやすいので、鼻の治療も行います。(特に、2歳未満では免疫力が弱いため、重症化を避けるため抗生剤使用が望ましいといわれています。)
滲出性中耳炎では、痰を出すお薬(去痰薬)で治癒することがあるといわれています。また、鼻炎を起こしていたり、アデノイドという耳管の出口付近にある扁桃腺が大きい場合は、滲出性中耳炎の原因となるため、点鼻薬(鼻噴霧ステロイド薬)や鼻炎の薬を併用する事で改善することがあります。
お子さんの滲出性中耳炎は通常3ヵ月以内に治る場合は、薬での治療で様子を診ますが、3ヵ月以上の長期間にわたり滲出性中耳炎が続く場合は、鼓膜チューブ留置(鼓膜を切開し、しばらくの間排泄路を作るためチューブを留置する)が必要な場合があります。
難聴
まず、耳の中を確認し、外耳炎や中耳炎等の処置や薬などで治る病気がないかを確認し、外耳・中耳に病気がある場合は治療を行います。
聞こえの程度は聴力検査で評価をさせて頂きます。
急性の難聴の場合は、急いで治療をさせて頂く方がよい場合もあります。
緩徐に進行する難聴を自覚され今どれくらい聴こえているか知りたい場合、健康診断で難聴を指摘された場合にも適切に対応させて頂けたらと考えています。
難聴 Q&A
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聴力検査を受けたけれど、自分の聴こえってどのくらいですか?
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音の大きさはdBという単位で表します。数字が大きくなる程大きな音となりますので、数値が高い程難聴があるということになります。
音の低音、高音は周波数(Hz)で表します。
※目安としては、会話音は50-60dB、ささやき声は30-40dB程度と言われています。当院では、難聴でお困りの方に聴力検査を行っています。検査結果の参考にして頂けたらと思います。
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補聴器はどのくらいの聴力になれば必要ですか?
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一般的には、40dB以上の中等度難聴になると日常的な会話でも困ることが増えてきます。25-39dBの軽度難聴の方でも、騒音下や大人数の会話では困ることがあります。同じ聴力でも、ライフスタイルにより困り具合は様々です。補聴器の装用には本人の意欲が重要ですので、聴力検査の数値だけでなく、その方の生活において「どれだけ聞こえに困っているか」が指標になります。補聴器に関して詳しく知りたい方は補聴器相談のページも参考にして頂けたらと思います。
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耳鳴で困っています。耳鳴に効果のあるお薬はありますか?
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耳鳴はセミの鳴く声とか金属音のような音とおっしゃって頂くことがあります。耳の奥で生じている音であり、耳栓などで改善することは難しいです。一般的に、難聴が進行すると耳鳴は大きくなることが多いといわれています。
急性の難聴を生じ耳鳴が悪化した場合は、治療により難聴が改善することで耳鳴も小さくなる可能性が期待できます。
耳鳴で困られている患者さんは多く、今後耳鳴が劇的に改善するような治療方法ができるとよいですが、現状では、緩徐に進行する難聴に伴う耳鳴の場合は、薬での改善効果は少ないとは言われています。
耳鳴への対処法として、耳鳴が気になる時に他の音を与える(好きなテレビや音楽などを付ける)ことは、耳鳴を気になりにくくすることに有用だといわれています。特に寝る前など静かな環境で耳鳴が気になる方は多く、耳鳴への対策として就寝時にリラックスできるような音楽などを小さな音で流しながら就寝される方もおられます。また、耳鳴は不快な音ですが、不快という意識が強くなればなるほど、脳は耳鳴を密接な不快音としてより大きく認識するようになります。そのため、なるべく耳鳴を不快と強く意識しすぎないことはよいと言われています。
耳鳴だけでなく難聴の症状でも困られている方は、補聴器を装用すると一般的に耳鳴は感じにくくなるとは言われています。
耳鳴に関しては、困られている方が多いのに対し、有効な治療法が少ないのが現状ですが、耳鳴と自覚していても、実は他の原因(鼓膜に耳あかが付着しているなど)があることもあります。これまで耳鼻科を受診されたことがない方は、一度受診を検討して頂けたらと思います。
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突然ある日耳が聞こえにくくなりました。早めに受診するべきでしょうか?
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難聴の原因に関しては実際に診察をしてみないと判らないですが、突然耳が聞こえにくくなる病気の一つである突発性難聴では、発症早期であれば、神経のダメージを減らす薬(ステロイド)が有効である可能性があります。早めの受診をおすすめします。
顔面神経麻痺
ある日突然片側の顔の動きが動かしにくくなる病気です。顔面神経は脳の神経の一つで、耳の中を通った後、唾液腺(耳下腺)を通って、顔全体に枝わかれし、顔の表情を動かす働きをしています。顔面神経麻痺がおこると、眼が閉じにくくなったり、口元から食事の時に水がこぼれたりします。
顔面神経は脳神経の一つですので、脳梗塞など脳の病気でも生じる事があります。脳の病気による顔面神経麻痺の場合には、脳には他の神経もあるため、顔面神経麻痺以外の症状(手足が動かしにくい、話しにくい等)を伴う事も多いです。顔面神経麻痺だけでなく他にも普段と異なる症状を伴う場合は、クリニックではなく急いで総合病院を受診し、脳の病気がないかを調べていただくことがおすすめです。症状が顔面神経麻痺のみの場合は、耳鼻科の顔面神経麻痺の可能性もあります。
顔面神経麻痺 Q&A
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耳鼻科的な顔面神経麻痺の原因は?
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耳鼻科の顔面神経麻痺には、ベル麻痺といって原因不明に生じる麻痺(ウイルスなどが原因ともいわれています)が多いですが、耳に帯状疱疹という痛い発疹ができて生じるラムゼイハント症候群、耳下腺腫瘍などでも生じることがあります。
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顔面神経麻痺の治療は?
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顔面神経麻痺は何らかの原因で神経がダメージを受けた状態です。発症早期の場合は、神経のダメージを減らすためステロイド(ホルモンの薬、炎症を抑える効果あり)を大量投与することが多いです。ステロイドを投与することにより、神経のダメージを軽減し、将来的に治る可能性を高めます。ステロイド治療は顔面神経麻痺に対する発症早期の治療として有効ですが、副作用もある治療です。
ステロイドの副作用
- 免疫力の低下
- 血糖値上昇
- 胃潰瘍のリスク
- 顔のむくみ
- 不眠
- 食欲亢進(長期投与の場合)
- 白内障のリスク
- 骨粗しょう症のリスク
など
- 特に糖尿病の持病がある方や、B型肝炎に過去にかかられたことがある方は、ステロイド治療には注意が必要です。
顔面神経麻痺の程度により、高用量のステロイド治療(点滴治療)が選択肢である場合は、総合病院に紹介をさせて頂きます。
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顔の動きが突然悪くなり、治るかどうか心配です。治療をすれば早期に病気は治りますか?
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ある日突然、顔が動かしにくくなる病気が顔面神経麻痺であり、病気になられた場合に治るかどうかご心配される方が多い病気です。
ただ、ステロイドなどの神経のダメージを減らす治療を行った場合も、神経を直接再生する治療ではないため、良くなる方でも1-2か月は改善までに時間がかかります。一般的に、治療を行った場合でも、すぐに治癒する病気ではないですので、治療早期に治らない場合でも一喜一憂されず、根気強く治療を継続して頂けたらと思います。
めまい
めまいの原因の約半分は耳が原因と言われていて、耳鼻咽喉科ではめまいを専門として診療しています。めまいの原因の半分は耳の病気ですが、耳の病気以外にも、脳の病気や内科的な病気(血圧や心臓など)、ストレス性などめまいの原因は多岐にわたります。
耳のめまいでは、めまいの発作時に眼が揺れる(眼振がみられる)ことが特徴です。
めまい発作時に天井など景色が実際にぐるぐる回るような回転性のめまいの場合は、耳のめまいの割合は多くなります。(逆にめまい発作時に眼をあけても、景色が揺れない場合は内科的なめまいなどの頻度が多くなります。)
急性のめまいの中で最も怖い原因は脳の病気です。めまい症状の外に他の症状を伴う(手足が動かしにくい、歩行時にまっすぐ歩けない、話しにくい、経験したことのないような頭痛を伴う)場合は、クリニックよりも総合病院を早期に受診されることをお勧めします。
ここでは、代表的な耳のめまいの病気2疾患(良性発作性頭位めまい症、メニエール病)について記載させていただきます。
- 良性発作性頭位めまい症
耳のめまいの約40%はこの病気といわれており、めまいの原因として最も頻度が多い病気です。
耳の内耳にはバランスを保つ神経がありますが、そこにある耳石という小さな平衡バランスを保つ石が、偶然外れた場合に生じるめまいです。
安静にしているとめまいは一旦収まりますが、寝返り等の体動時に、三半規管の中を石が転がることによって短時間のめまいを繰り返します。
寝ている時に耳石が外れ、朝起き上がると突然めまいがおこるという場合もあります。
一般的に耳のめまいですが、難聴の症状は伴いません。
病院では、頭を動かした際に、典型的な眼振がみられるかどうかを評価し診断します。良性発作性頭位めまい症の場合は、外れた耳石が元の位置に戻るとめまいは収まります。めまい体操を行っていただくことで、改善が早くなりますので、良性発作性頭位めまい症と診断した場合は、めまい体操の指導もさせて頂きます。 - メニエール病
低音部を中心とした難聴や典型的なめまい発作を繰り返す場合にメニエール病と診断します。蝸牛型メニエール病といって、めまいを生じず、難聴のみを繰り返すメニエール病もあります。以前は、若い女性の方に多い病気といわれていましたが、近年では、性別、年代を問わず多くなっています。
メニエール病 Q&A
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メニエール病の原因は?
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内耳に流れている内リンパ液がむくむ(内リンパ水腫を生じる)ことにより難聴・めまいを生じる病気です。体質的に、内リンパ水腫を起こしやすい方がメニエール病となります。
蝸牛(聞こえの神経)で内リンパ水腫を生じると難聴を、前庭(バランスの神経)で内リンパ水腫を生じるとめまいが生じます。
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メニエール病の治療は?
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メニエール病の悪化には、 ストレスホルモンの影響が知られています。そのため、発作予防には疲れ・ストレスの軽減が重要です。
メニエール病の治療ステップ
生活習慣の改善
睡眠時間の確保、生活でのストレス軽減、適量の水分摂取(脱水は悪化要因)、減塩、有酸素運動(週1~2回のウォーキングなど)がよいといわれています。
1薬物療法
内リンパ水腫を改善させる薬を処方します。
メニエール病の発作を落ち着かせるには、ストレス負荷の軽減が重要ですので、病院での薬の治療だけでなくstep1が重要です。生活習慣の改善及び薬物療法により、メニエール病のコントロールを目指します。
難治性の場合の治療としては、中耳加圧療法や手術(内リンパ嚢開放術)などの特殊な治療があります。難治性の場合は、当院でも適切に評価、治療法の提案ができればと考えています。2
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メニエール病の治療として中耳加圧療法は当院でできますか?
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中耳加圧療法は難治性のメニエール病の治療として、2019年から保険診療で可能となった治療法です。中耳加圧療法は、在宅医療機器(中耳加圧装置)を貸し出しし、1日2回、3分間耳に機器をあて耳の中を加圧する治療です。
当院では、院長が前任の大学病院で2019年から中耳加圧療法を導入していたこともあり、治療が必要な方には中耳加圧療法の導入をさせて頂けたらと考えています。
比較的副作用も少なく、難治性メニエール病であってもめまい発作の改善が期待できる治療ですが、現在、全国的に人気な治療であり治療開始まで機器の供給のため待ち時間があること、1回/月での通院が必ず必要となることから、治療に難渋している方に限定して導入させて頂けたらと考えています。